繁忙期以外の管理を

我々の業界の中でも特に監査や会計部門は、11月や12月は比較的仕事量の少ないシーズンだ。その余裕のある時間をうまく使って、12月末決算のクライアントの監査プランニングを開始したり、新会計基準のトレーニング、また非上場のクライアントで、経営陣が特に早期決算を求めていない場合の監査などが、この時期に行われていたりもしよう。もちろん9月末決算のクライアントもあるだろうが、12月末や3月末が圧倒的に多いはずだ。この時期をうまく使える会計士は優秀な気がする。大手会計事務所にいた時も、マネジャーによって繁忙期でない時期の自分のポートフォリオや他のスタッフの管理方法で大きく差がついていた。忙しい時にうまく回す技量が求められるのは当然で、問題はそうでない時に何をできるかではないだろうか。

こういった話は何も会計業界の話だけではなく、ビジネスそのものにも当てはまるだろうし、プライベートの過ごし方にも及ぶのではないだろうか。監査で多種多様なクライアントを訪れるが、売上がシーズナルな業界は多い。例えばこれからクリスマス商戦が始まるが、この時期の売上が1年の半分ほどを占めてしまう業界もあろう。もちろんそう言った業界が11月、12月だけ資材を投入すればいいというわけではない。この時期に向けてマーケティングや商品開発、人材育成に膨大な時間とキャッシュを投資しているはずだ。こうしたビジネスサイクル全体像が、実はマネジャーレベルでも理解できていない、もしくは理解していても全体をマネージできない人がいたりもする。その時々に振り回されて、決断もその場しのぎばかりであったりする。そういったマネジャーの下で働く現場レベルは、一層全体像が見えなくなるだろうし、見渡せる能力のあるスタッフがいても抜擢されることはないかもしれない。僭越ながら監査で訪れるクライアントの経理部でもこのような光景はしばしば目撃された。

個人に翻ってみると、仕事の予定によって、もしくは子供や家族の予定によって、プライベートにも繁忙、閑散期がある。例えば平日と週末かもしれない。外せない付き合いや家族のイベントなどはプライベートでも重要な時間であろう。そう言ったイベントが少なかったり、休暇を取ったりして自由な時間が生まれた時、どのように使うだろうか。偉そうに言っているが、自分自身への戒めの意味も込めてこのように書いているのである。日頃から、時間ができたらあれに手をつけようだとか思っていても、いざ時間があるときにすぐに着手するかといったら、なかなかそうもいかない。結局、本を読みふけって終わってしまったりする。それはそれで大切ではあるが、いつかやろうと思っていることが、永久に出番が回ってこないことになりかねない。

最近はパソコンのカレンダー機能が充実しており、To Do Listの管理がしやすいアプリも多く、ラップトップ、iPhone、iPad全てがクラウドで繋がっているため、仕事はもとより、自己管理も遥かに楽になった。同時進行のプロジェクトやプライベートのスケジュールとTo Do Listが視覚的時間軸で把握しやすいのだ。とは言っても最後は結局のところ自分で実際に手をつけるかどうかの話である。学生時代、試験勉強の予定だけはきっちり立てても、実際に手をつけないで、計画倒れになった記憶のある人は多いのではないだろうか。時間ができた時に何をしているかで、人生全体のパフォーマンスに大きな差が出るのだろうというのは想像に難くない。もうすぐクリスマス、正月シーズンだ。旅行など楽しむ時間や家族との時間も重要だ。でもそれだけではなく、普段は目の前のことに追われて後回しになってしまっている、緊急ではないリサーチや自分の技能のブラッシュアップ、そして一歩引かないと見えてこない組織の問題などを考えてみる時間などを作る絶好のチャンスである。

新会計基準、FRS 102の実施迫る Part 2

FRS 102について、前回は適応できる基準と、その条件について軽く触れた。今回は、適応周辺の条件などによって引き起こされている危惧や課題について言及しようと思う。

小企業向けの会計基準FRSSEが2016年には消え去り、Micro entities向けのFRS 105の条件に収まらなければ、FRS 102を適応しなければならない(ただしIFRS適応企業は除く)。しかし一方で、Small/Medium entitiesのスレッショルドは大きく上がる。この辺りで小規模企業や日本の英国子会社などで混乱を招いているようだ。

まず、Small entitiesのスレッショルドが上がるということは、監査対象企業のスレッショルドも上がることになる。2015年現在のSmall entitiesのスレッショルドは売り上げが£6.5m以下、総資産が£3.26m以下、従業員が50名以下、の3条件のうち2つを満たせば小企業となり、かつ法定監査の免除を受けられる。これらの数値が2016年以降は、売り上げが£10.2m以下、総資産が£5.1m以下、従業員が50名以下と、大幅に引き上げられる。従って、例えば売り上げが£8m、従業員が30名だった企業は2016年度以降は監査免除の対象となり得る。

しかしこれは在英日系子会社には大きなニュースとはならない。監査免除の可否は当該英国企業の所属グループ全体の大きさが対象である、つまり上記スレッショルドは、グループ全体の規模で判断される。そうなると、英国に進出している日系企業のほとんどはグループで見た場合このスレッショルドを超えてしまうであろう。

また、上記のようにスレッショルドが上がることとFRSSEがなくなることから、FRS 102適応で大きく負担が増えると危惧している経営者も多いはずだ。しかしFRS 102は2016年度から、セクション1Aという開示情報の減免事項を適応可能となる。逆にその危惧から、これまでFRSSEを適応してこなかった企業が、FRS 102適応を遅らせるために2015年 度のみあえてFRSSEにて決算書を作成し、2016年度からFRS 102に移行とした場合、両者の基準の違いから幾つか混乱する可能性のあるエリアが存在する。その最たる例はInvestment property、Intangible assetsそしてDeferred taxあたりだろう。これらについてはまた次回触れてみたい。

BEPSの最終レポートがリリース

10月5日に開催されたG20会議でOECDのBEPS(Base Erosion and Profit Shifting 財源侵食と利益移転)に関する最終レポートがリリースされた。昨今のグローバル企業の非常に手の込んだ、そして時には悪質な手法による租税回避への対策が主な目的だ。アメリカの名だたる企業群が大きな利益を上げていながら、各国の税制の抜け穴を利用し、移転価格やハイブリッドミスマッチ、知財やR&Dなどを巧みに組み合わせて、本来支払うべき税金を「合法的」に回避しているのは有名である。

新しいBEPSに関するレポートでは、国際的課税回避の抜け穴への対策を15のアクションプランに分けて論じている。その中でも、特に重点を置いているのは移転価格に関する対策と言える。このレポートによると、グローバル企業の移転価格のドキュメンテーションが義務付けられる見通しである。これまでも各国の税務当局はOECDのガイドラインに従ったレポートを用意しておくことを推奨してた。税務当局からの移転価格に関する調査があった場合、文書化がされていない企業は、当局からの移転価格根拠提示の請求への対応に失敗すれば、ペナルティが課されるというリスクはあった。しかし今後ドキュメンテーションの義務化が実施されれば、定められた規模の企業は移転価格レポートを用意、適時更新しなければならなくなる。

ちなみに、ハイブリッドミスマッチとは、各国の税制の抜け穴を突いた「二重非課税」や永遠に税金を繰り延べできる金融商品などの取引のことである。OECDが簡単な例を挙げて解説している。ある国では損金計上可能な利子が、受領国では配当と見なされて免税となるような、税金回避のためのデリバティブを開発することである。

ただ日本の企業に限れば、アグレッシブな税金プランを組んで租税回避している企業は比較的少なく、どちらかというと今回の決定は、タックスヘイブンと上記の手法を巧みに利用して租税回避することによって膨大なキャッシュを得ている欧米企業との競争力という立場から見たとき、むしろ歓迎すべきものではないだろうか。ただし、今後予想されるのは、OECDの移転価格に関するガイドラインのアップデートや、今回のBEPSの最終レポートを受けて各国の税制の変更等であり、グローバル企業は各国のコンプライアンスへの対応が課題となるはずだ。

新会計基準、FRS 102の実施迫る part 1

英国の会計基準は大きな変換期を迎える。2015年1月1日以降にスタートした会計年度の決算書については、EU-Adopted IFRSもしくはFRSSEを採用している決算書を除き、FRS 102に移行しなければならない。FRS 102はIFRS for SMEs (Small and Medium Entities、つまり中小企業向けに簡易化されたIFRS)を元に英国の会社法Companies Act 2006に対応しつつアレンジされたものである。同時にFRS 101 Reduced Disclosureも施行、2016年にはFRS 105 Micro entities向けの会計基準も適応可能となる。なお、FRS 102にもReduced Disclodureと呼ばれるレジームが用意されており、FRS 101と混乱を招きやすい。

FRS 101はEU-Adopted IFRSを適応する会社で、かつグループ企業の子会社向けであり、そのグループが該当の子会社を連結した決算書を用意する場合に当てはまる。言い換えると、IFRSを適応しない会社や、グループ企業でも連結から外れる会社はFRS 101の対象外となる。FRS 101の目的は、英国内の企業でIFRSを自主的に適応する場合、これまではIFRSのフルバージョンを適応となっていたが、連結される会社の場合、そこまでの開示や詳細な会計処理の重要性が低いことから、その負担を軽減することを目指したものである。それに対してFRS 102 のSection Reduced DisclosureはFRS 102を適応する企業で、グループ企業で親会社に連結される場合などに当てはまる。基本的な概念はFRS 101と同じである。

2015年時点では小企業の基準は変更なく、これまでFRSSEを適応してきた企業はFRSSE 2015を適応可能で、2015年度の決算書には大きな変更はないと考えられる。しかし2016年1月1日以降にスタートする会計年度については、中小企業のカテゴリーを決める条件が刷新され、現状の「小企業」のスレッショルドは大幅に引き上がる。一方でMicro entityというカテゴリー向けの会計基準であるFRS 105が採用可能になる。ただしMicro entityのスレッショルドはこれまでの英国小企業よりもかなり低く、当てはまる企業はかなり少なくなるはずだ。これまでの「小企業」として扱われていた会社がいきなりFRS 102フルバージョンの適応で不必要な負担を背負うことを避けるために、新しいスレッショルドにおける「小企業」だがMicor entity以上でFRS 105を適応できない企業にも開示負担を削減したレジームが用意される予定だ。ただしこれは2016年度以降であり、2015年は適応できない。

また次回、もう少し新しい会計基準について触れてみたいと思う。

真のプロフェッショナルを目指して

転職して初めの1週間が過ぎる。会社のソフトウェアやシステムを遊びながら慣れつつ、幾つか入ったリサーチやレポート等の仕事に早速手をつけた。一方で同僚たちと雑談をしたり、できるだけ昼食を一緒にとって情報交換をしたりと、会社の現状とクライアントの把握を意識した。もちろん1週間程度ですべてをつかめるわけはないが、自分が何を持ち込めるかを考えながら見ていると、ざっくりとではあるが色々と見えてくる。

前職では監査漬けのキャリアであったが、ここでは軸足は監査に置きつつ、税務から会計周辺の知識知識も武装したジェネラリストであることが求められる。もちろん監査を担当するクライアントには独立性を損なうような立場には立てない。だが監査以外のクライアントへは二人三脚となって総合的な窓口となってクライアントをサポートしたい。ジェネラリストというのは一見危険でもある。つまり、広く浅い知識にとどまって、器用貧乏のような形に陥ってしまう危険性もある。しかし一方で、これだけ専門分野が細分化され、そのどれもがますます深く複雑化していく時代にすべてを一手に引き受けるのは不可能だが、誰かがそれぞれのエキスパートをまとめて窓口とならないと、クライアントの複雑化した問題を解決することなどできない。その窓口となるプロフェッショナルは、それぞれの分野全般を理解していなければ他のエキスパートと協業できないし、また各専門サービスをクライアントのためにテイラーメードするにはクライアントの本当の問題を見抜く能力も重要だ。そしてチームをリードするにはリーダーシップやマネジメント能力は不可欠となる。つまり、真のジェネラリストは単なる広く浅くという意味ではなく、広く深く人間総合力を磨くということに他ならない。

複雑化と同時にソフトウェアや情報共有の進歩から、専門分野への特化型とジェネラリストの両極化は一層進むと思う。しかしひとつの専門分野を極めるのは今後リスクにもなってくる。これだけ時代の流れが速いと、特定の分野の陳腐化は突然始まり、あっという間に消え去ってしまうこともある。またジェネラリストも上記のようにただ広く浅い知識では器用貧乏にすぎず、クライアントの役に立つことはないだろう。『選ばれるプロフェッショナル』(ジャグディシュ・N・シース、アンドリュー・ソーベル著)で唱える「ディープジェネラリスト」を目指したい。ディープジェネラリストとはコアとなる専門性に優れつつも広く深く学習できる信頼されるアドバイザーのことである。

新しい旅立ち

新しいキャリアが始まる。いつだって旅立ちの朝は、これから始まる冒険への興奮と不安の入り混じった気持ちで迎える。ロンドンの街を歩けば、人々の息づかいも過ぎていく車の音も、いつもとは違って感じる。秋の色に染まり始める朝の通りを少し大股で歩いてみると、背中が少し汗ばんでくる。ジャケットを脱いで、まだまだ冬が遠いことを知る。

この道を歩くと昔の色んな思いが蘇ってくる。そう、新しいキャリアといっても、トレイニー会計士だった頃に勤めていた中小会計事務所に戻ることになったのだ。そして随分と異なるポジションを任されることになった。これから始まる新しいチャプターでの自分に開かれている可能性について考えると武者震いを覚える。その一方で、これからどんな荒波が待ち受けているのだろうかという、少し弱気な自分も時折顔を覗かせたりもする。でも、何もかもひっくるめて楽しんでやる、と誓った。過ぎ去ってしまえば全ては物語。これまでだって、楽しいことも辛いこともあったが、どれもが輝いている大切な瞬間だ。

自分には大きな夢がある。それに向かうため、一歩一歩踏みしめながら、そして楽しんでいこう。未来は明るい。今日の気持ちを忘れない。

2015年9月14日