2017年 キャリアの節目

まだ2017年を締めくくるには少々早いが、この1年を振り返るったときキャリアの上で大きな節目となったのは確かである。今の会計事務所に移籍して2年が過ぎ、正式にパートナーに昇格、また監査パートナーとしてRI(Responsible Individual)として登録した。パートナーになった瞬間に何か見える世界が変わるわけでもないが、クライアントが完全に自分のポートフォリオとなる実感は、思っていた以上に自分のモチベーションに影響を与えた。日曜日に出社して、誰もいない静まり返ったオフィスで、クライアントの各プロジェクトの進捗やスケジュール、To Doなどを整理していると、こうったクライアントやプロジェクトがまさに自分のポートフォリオであって、自分はダイレクトにこのクライアントをサポートしようとしていると思うと、ぐっと愛着が湧いてくる。リストを眺めていると、各クライアントの状況が蘇る。買収後のPMIで苦戦しているクライアント、リストラクチャリング計画が税務上の問題がネックとなってなかなか進まないクライアント、欧州地域の子会社を連結すべきかどうか決めかねているクライアント、それぞれの問題や担当者の顔が浮かんでくる。どうにかして問題解決の力になりたい、これがプロフェッショナルのモチベーションである。その方法は何通りもあり、人によって異なるアプローチやコミュニケーションを取るはずだ。プロである以上、そこに自信を持って向き合うことになる。そして、僕のクライアントの責任者は僕であり、自分で決断を下し、チームと共にでき得る限りのベストを模索してクライアントにサービスを提供するのである。

実は先月の日本出張でこんなことがあった。かなり過酷な日程の中、あるクライアントのミーティング上で日英の国境を跨いだ税務上の問題があることが判明し、その日の夕食後にホテルに戻って急遽、ロンドンの税務チームと電話会議を行い、その結果を踏まえて東京の提携先のコンサルティングファームと打合せの為にメールを送る。そして、この日の各ミーティングのアクションプランを簡単にまとめた。その頃にはロンドンは活動時間帯で、僕の英国のクライアントやチームから容赦なくメールが飛び込んでくる。その日すべきことが片付いたころはすでに深夜12時を回っていた。翌日も5本のミーティングが控えている。しかしため息の一つどころか、僕は生きていると強く実感し、ベットに倒れ込むように眠り込んだ瞬間が幸せだった。

そんな僕も自分の仕事を猿芝居とまで貶していた時期があった。ひたすら監査の現場で奮闘していた頃だ。主査として現場を預かり、3〜5人のアソシエイト達を連れて、来る日も来る日も現場を転々としていた。監査チームはクライアントから喜んで迎えられることは少なかった。お互いに精神的な消耗戦となることも度々あった。こちらは決算書が正しいと言い切れるまで十分は証拠を手に入れる必要がある。しかしそれはクライアントにとっては時には大きな負担となり、双方で必要な資料や説明を巡って対立が続くこともあった。これだけ現場ですり減らしながら完了した監査も、結局はハイレベルな判断に大きく頼る部分が決定打を占め、現場レベルは単なる細々とした証拠のかき集めに過ぎない、とさえ思えることも多々あった。監査スキャンダルがニュースになる度に、我々は誰のために一体何処を目指して何を到達しようとしているのだろう、と無力感に苛まれた。これらのスキャンダルだって、おそらく担当者たちは皆、神経をすり減らしながら監査テストやドキュメンテーションをしていたはずだ。監査ファイルをマネジャーに渡して、重箱の隅をつつくようなリビューポイントのリストと共に突き返される度に、これは猿芝居か何かか、とさえ思うようになっていた。僕がマネジャーとなって現場から少し距離を置くようになり、逆に監査ファイルをリビューする立場になっても、この考えから劇的に変わることはなかった。

だが今は全く違う。それは監査サービスよりもアドバイザリーの占める割合が増えたことも大きいが、何よりクライアントとの信頼関係を元にクライアントに対して真摯に向き合って自分の信じるサービスを提供しているという自信が少しづつ芽生えてきたからだと思う。それは監査クライアントに対しても同じである。自分が提供する監査サービスは、もちろんコンプライアンスであるのは確かだが、自分の信念が宿りつつある。それは監査アプローチを甘くしたり、実施テストをただ減らすと行った短絡的な手法ではなく、クライアントをより理解して、何が問題なのか、リスクなのかを本当に理解した上で、決算書に現れる数字と向き合うという姿勢に変化したことが一番の原因だと思う。考えてみれば当たり前のことである。ISA国際監査基準もクライアントを知ることこそ、監査の第一段階だと明言している。クライアントをより深く理解すれば、それまで影に隠れていたものが見えてくる。それは監査やアドバイザリー関係なく、クライアントが必要としているプロフェッショナルではないだろうか。そして、このアプローチが自分のキャリアを再び愛すことができるようになったきっかけでもあった。

こんな新米パートナーで、まだまだ頼りないプロに違いないが、それでも僕を信頼して選んでくれるクライアントがいる。ならば僕も覚悟を持って、クライアントを助けるためにもっともっと実力をつけて、真のプロフェッショナルになりたいと心に強く誓うのである。時は勢いを増して過ぎていく。人生は下りのエスカレーターだ。立ち止まっていることは、人生の下降である。歩きで登ることが現状維持。駆け上がらなければ想うステージに辿り着くことは決してないだろう。年末の休暇で恒例の自己の棚卸しをして、2018年に備えたいと思うのである。

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